ヤギのおっぱい肉
「ハノイでヤギのおっぱい肉が食べれる」。
宿で朝食をとりながら、ベトナムのガイドブックをぼんやりと眺めていたところ、ふとこんな文章に出会った。
「胸肉」ではなく「おっぱい肉」なのか。
なんとなく違いはわかるが、あまりにダイレクトに本能を刺激してくるそのワードに脳みそを支配されてしまい、部屋に戻った僕は早速情報収集に入った。
「ヤギ おっぱい」と検索をかけてみたところ、やはりベトナムで人気の焼肉料理であることが判明。
英語表記で「Num」と書くらしいので、その字を頼りに夜は街へと繰り出そう。
そう決意しウキウキしていたところ、同じドミトリーに日本人女性らしき人が入ってきた。
「こんにちは~」
まずいっ、と条件反射で検索履歴を削除しあわてふためく。やましいことはないのだけれど、もし万が一、その人が調べものをしたくなって僕のパソコンを使った時に、「ヤギ おっぱい」と履歴に残っていたらどう思うだろうか、と変に敏感になる。
話によるとその人は、三重出身の同い年でIさんといい、「ホーチミンの死体を見にベトナムに来た」らしい。
旅行は3泊4日。職業介護士の彼女に一体なにがあって死体を見にきたのだろうか。
絶対興味あるはずだと思い、口角泡を飛ばす勢いで夕食に誘ってみたけれど、怪訝に思われたのか、とりあえず夕食後のナイトマーケットへはついていきたいですということになった。
1日街をうろつき暇を潰し、ようやくネオンが灯り始めたところで一瓶120円くらいのビールを片手にNumの文字を探しに出る。
「Do you have "Num"?」と聞いて回るが、必ずと言っていいほど「What?」となるので、とりあえず鳴き声とジェスチャーで伝えてみる。
失笑を買い続けたが、「それなら俺についてこい」とちょっと怪しい男に連れていかれる。この人がなかなか尽力してくれるが、「お前の店でヤギのおっぱいねぇか!?」みたいなことを叫びまくり、ちょっと周囲をざわつかせてしまう。
何軒目かの露店で「ヤギのおっぱいBBQがあるぜ!」とメニューを見せられ、確かにそこにはNumの文字が。
ベトナム語でありがとうを伝えると、「5000ベトナムドン(約27円)くれ」というので気前よく渡してやる。
これもおいしい食にありつくため。
早速ヤギと牛肉を注文をしてみるとこんな感じで出てきた。
なるほど、これがヤギのおっぱい肉か。見た目からして確かに柔らかそうだ。
焼いてみる。
ジュウジュウといい音がする。
真ん中にバターを乗っけて食べるのが主流らしく、全部店員さんがやってくれた。
隣で辛そうな鍋を食べているイングランド人のカップルに、「俺は今日ずっとこのお肉を食べたかったのさ」と伝え、一緒に火が通るのを待つ。
朝から待ちわびていたこの焼肉、どんな味がするのだろう…。
胃がヤギを欲している。
そしていざ、2人に凝視されながら口へと運ぶ。
コリコリコリ…コリ…、んん、、、、
ちょっと待てよ、、なんか食べたことあるかも……。
カップルに日本特有の渾身の食レポを捧げたいが、舌に言い訳はきかない。
これははっきり言ってしまえばただのホルモン焼きではないか。
ホルモンの違いが分かるような焼肉通ならば、しっかりと味を位置づけることができるのだろうが、ミノもギアラもマルチョウもテッチャンもすべて同じだと思っている僕としては、これはホルモンですといわざるをえない。
ぎこちない微笑みを2人に向けて、「デリシャス、とりあえずチアーズ!」と乾杯を促した。
それからはもうビールさえ飲んでいればなんでもおいしくなってしまって、隣のカップルと共有して会話を楽しむ。
イングランドにもヤギのおっぱい肉はあるらしく、そんなに珍しいものでもないらしい。ふと、なぜこんなにもこの肉の虜になっていたのだろうと我に帰ってしまう。やはり字面だろうか。
また、会話の種としてはオアシスとかビートルズの話を持ち出したらよかったんだろうけれど、口から出たのはなぜか「the office」という出国前に見ていたイギリスドラマの話で、すぐさま物まね大会が始まる。
ミスタービーンといい、マッケンジー・クルック演じるギャレスの物まねといい僕は海外で一体何をしているのだろう。
愛すべきクソ野郎系の物語が好きなら、このドラマはかなり楽しめると思う。
動画サイトの「hulu」で全編見れるので、イギリス人と仲良くなりたかったら絶対に見ていた方がいい。
ネイザンさんとシェリーさん。
21時頃からIさんとナイトマーケットへ。
上:”いちばんつよい”パンツ
下:”かわいい”パンツ
路上ライブもやってた。
特に何もないハノイだけれど、こうやって国籍問わず誰かと街を共有すると楽しい。
ひとりだから見える街と、ひとりでは見えない街がある。
ぐだぐだ書いてしまったが、それっぽいことを言って終わる。