川上カーマスートラ

海外での生活

言葉詐欺

なぜか海外にいると女の子に積極的になってしまい、その土地々々の「君、かわいいねぇ」を現地人に教えてもらう。

英語で「You are so cute.」
タイでは「クン ナーラック カッ」
ベトナムでは「エンビャンヴァイッ」

ベトナムでは「エンビャンヴァイッ」…
のはずだった。

ベトナム1泊目のハノイで、日本語センターで働くべトナムの男たちに(ボイスレコーダーに録音してまで)伝授してもらったのだが、滞在7日目のフエにて、今まで築きあげてきたスウィートメモリーが、瓦解していった。

事の前兆は散見されていた。

屋台でかわいい売り子を見つけた時や、「ベトナム語難しいですよね」と現地人と話が盛り上がった時に、ここぞとばかりに「エンビャンヴァイッ」を乱発していた。

あなたかわいいと言われて嬉しくない人などいないと思うのだが、どうも言った後のリアクションが悪い。「何よ突然」みたいな戸惑った表情をする。

僕は、自分の発音が悪いのだとばかり思っており、こうなったら録音してもらったボイスレコーダーを聞かせてみよう、と何人かの女性には「エンビャンヴァイッ」を耳元で聞かせてあげた。

ワクワクしながら相手の反応を待つのだが、ツンデレも甚だしく今までのベトナムスマイルは幻だったのかと、彼女たちは足早に去っていく。

さてはみんなシャイなんだなと、何の疑問も抱かずにベトナム人女性の国民性を決定付けようとしていた矢先、衝撃の事実を知ることになる。


フエで寺院を探索しているとき、「アナタハ日本人デスカ」と後ろから声をかけられた。
振り返ればそこに美人さんがいるではないか。
暑さには参っていたが、俄然やる気になった僕はやはり調子に乗って、シンチャオとベトナム語の挨拶から入る。
話をしてみたところ、彼女は現地のTOYOTAで総務の仕事をしているとのこと。

だから日本語が上手なんですね…。

となるとベトナム語の話になる。
僕は思いつく限りのワードを流暢に披露して見せた。

「カム ウン」ありがとう
「シンチャオ」こんにちは
「エンビャンヴァイッ」あなたかわいいですね

この3つだけだ。
どこ行ってもこれさえあればなんとかなる。

雰囲気が良くなることを当然のごとく期待していたのだが、その女性は突然名探偵のような厳しい顔つきになり、こう詰め寄ってきた。

「アナタ、ソレドコデ習イマシタカ?」



(おお、照れてるぞ…)ハノイの男の子たちに教えてもらいました。あなたかわいいですねでしょ?」


「ソレ、あなたデブですねノ意味デス。」





「あなたデブですね!?」



「ハイ。女ノ人、アンマリソレ好キジャナイ。」



…。

あの野郎共!!!!



「アナタ騙サレマシタネ。」

「はい、でもあなたは綺麗ですね」


ーーーーーーーーーー。



” 一目惚れ 見とれる星の裏 血滲む ”
国旗にかけて一句詠む。切なさを消化するしかない。
僕はすれ違ってきた女性を、幾人も傷つけてきたらしい。
初対面の外国人に「アナタ髭濃イデスネ」と言われたことなんかないのに、僕は「あなたデブですね」と満面の笑みで、異国の女性に喧嘩を売っていたらしい。
ハノイで酌み交わした男同士の熱い友情が、一瞬にして憎しみへと変わった。

今までの変な雰囲気にすべて合点がいった。
とりあえずそのベトナム人女性に、正規の「あなたかわいいですね」を教えてもらったけれど、見事トラウマと化しているのか、まったく頭に入ってこなかった。

「これ以上女性を傷つけられないから…。」

…やけにかっこいいセリフで1日を終えるとなんか心地よい。
明日は早朝からホイアンでランタン作りのため、早めに寝る。