川上カーマスートラ

海外での生活

救いはチャイティー

インドが嫌いだ。

海外にいると「インド人ってさぁ~…」「ほんとアイツらって…」などといった、憎めないバカ彼女を語る口調をよく耳にするけれど、僕の場合はガチだ。
もうクラクションの音に耐えられない。
本気だ。
細い路地で、トゥクトゥクに後ろから鳴らされるたびに、「どこをどう握って力を加えると、綺麗に張り倒せるか」を考える。
または、アメリカンタイプのバイクが、太っとい銀色マフラーを馬鹿みたいに轟かせるたびに、「そこにチャイティーを入れるとどんな音がするか」を考える。


この間なんてあまりに露骨すぎて日本語で罵倒してしまった。
歩道と車道の区別がないため、後ろからクラクションを鳴らされるのは日常茶飯事で、その日も汚ったない道を左右しながら歩いていた。
すると、一台のバイクが当たり前のように僕に対しクラクションを鳴らしてくる。

「プーーーー!!」

「おい、どけ」というニュアンスで鳴らされるそれは、東南アジアの「通るから気を付けてね」のものと質が違う。
僕はもう本当に疲れているのだけれど、「郷に入ったら郷に従え」スピリットをかろうじて思い出し、道を譲る。

そのバイクは、すいーんと僕の前に割り込んできて、すぐに停車。
呆れた。
お前はこの2,3メートルも待つことが出来ずに、僕にどけと言ってきたのか。
通行の妨げでしかなくなったそいつの後ろに、待ち合わせていたらしい彼女のような輩がまたがる。
「なるほどね、彼女に一刻もはやく会いたかったのね」と理解を示す余裕はもうない。
しかし、かといってこちらは爆音を持っていないので、自己主張の術もない。
しぶしぶ、沈黙しながらそいつらを再度追い抜き、歩を再開する。



「プーーーーーーー!!!!!!」



…。振り向くと、今追い抜いたそいつが、涼しい顔してクラクションを鳴らしてきた。
心が狭いと言われてもかまわない。インドをまだまだ知らないねと言われても、旅のだいご味を知らないねと言われてもかまわない。
カップルまとめてぶち殺してやろうと思った。
それで振り絞って声を張り上げる。



「うるせぇ!!」



我ながらダサいかなとは思ったけれど、久々に頭がくらっとするくらい大声を出した。
立ちくらみをおこし、体幹が傾きかけ、牛のうんこを踏みそうになる。
そして避けると後続のトゥクトゥクにクラクションを鳴らされる。



「にゃああああああん!!!!!」



奇声をあげる。
狂犬病を患っているわけではないが、それくらい僕の精神は限界にたっしている。

なんというか、ここはインドだから通用していることが多々あるような気がするが、こうはならないようにしないとな、と思わせられる。
もちろんいいところはあるのだろうけれど(今のとこ思い浮かばない)、ありがとうは言うようにしよう、道は譲るようにしよう、唾は吐かないようにしよう、立ッションしないようにしよう…等、反面教師的なところが強い。
あんまインドで学んじゃいけないと僕は思う。

むしゃくしゃしていたので帰り道に、古本屋でエロ小説「母娘」を買う。
精神の安定を取り戻すのには官能が必要だ。
今宿に引きこもってそれを読んでいるところ。



明日バンコク戻ります。